わたしがその巨大な国に足を踏み入れたのは
人生でそのときだけだ。
1989年
25年前のチャイナ。
6月4日
天安門事件の後。
それからは連日のように
CNNのニュースではこの事件のことを繰り返し伝えていた。
わたしはこの国で
何故、なにが起きているのかが知りたくなった。
よく考えてみたらこの国は、お隣でありながら
それに
毎日のようにこの国の文字、漢字を使っているのに
この大国のことを
何一つ知らないことに気がついた。
「いったいここで何が起きているのだろう?」
すでにこの国には戒厳令が引かれて
日本人は渡航のビザが出なくなっていた。
わたしたちが連日のようにそのアジリテーションを聞くことができた
「学生運動家」も
あるものは死んだらしい、
あるものは当局に追われて、南のほうに逃げたらしい。
逃げろ、逃げろ、生き延びろ!
時期を待つのだ。
自由はきっと来る。
たとえ、どんな国にも・・・。
「天安門に行こうよ
わたし、本当のことが知りたいんだよ」
でも、行ってどうなるの?とは
Sは言わなかった。
「行こう、、
天安門に行こう。」
それで決まった。
「お前はいつも
本当のことが知りたいんだろう?」
その後はよく
Sはわたしのことをそう言って理解してくれた。
その二ヵ月後
1989年8月
わたしたちは北京の空港に降り立った。
物々しい雰囲気。
空港での荷物のチェック。
あの事件以来
わたしたち二人は
記念すべき初めての日本人旅行者となった。