怖いもの無しだったあの頃。
狭い小さな世界の中で
主人公を気取っていたわたしたち。
交差点を渡ると
あちらからも
こちらからも
陽炎のように立ち昇る
若き日の自分。
旧山手通りを目的地に向かって歩くと
すっかり老舗のように構えている
この店の前を通る
この店がまだ原宿にある頃
美大生のわたしはここでアルバイトを二年もしていた。
代官山に店を出すとボスが決めたとき
回りの皆が心配をした。
大使館の並ぶスノッブなこの街では
客層が違うと誰もが懸念したから。
だがボスの決断は先見の明があり
この街の流れを完全に変えた。
あれから30年。
わたしたちは『ランチ』と呼び
姪などの若い世代は『ハリラン』と呼ぶ。
この店の呼び方で
世代が別れるのだ。
八幡通りのよく待ち合わせに使ったラ ボエムはすでに無く
その並びの『ココロの旅』に出てくる
ニューエイジショップ『翔兎』も
何処だったのか分からなくなっていた。
過去、現在、未来の
何処にいるのかも分からなくなってしまうような感覚で
異邦人のようにこの街を歩く。