そのおじさんの軽トラの荷台には
シャベルと竹ぼうきが乗っていました。
『朝、雪を掻いたんだけど、大丈夫でしたか?』
この神社には社務所もあるのだけど
神主さんも宮司さんもいらっしゃらず
忍草浅間神社の安田宮司さんが兼任されているのでした。
それでも、いつも掃き清められて
清々しい空気が漂っています。
この日も、参道は雪が綺麗に掻かれておりました。
このおじさんがされたんだな…
この方は、氏子総代さんなのでは無いかしら?
(あとから聞いたらやはり氏子さんの何らかのお役のかたでした)
『はい、大丈夫でした。
ありがとうございます。』
そして、お決まりの…
『どちらからいらっしゃいました?』
というフレーズ。
『東京からです。
色々な浅間神社をお参りしているんです。』
そんな答えを期待していたんでしょうか。
そうだとしたら
ここの由来や歴史を
とことん説明してあげようかな
そんな雰囲気でした。
『あ、ええと、
近所なんです。去年の11月に引っ越して来たもので…』
『そうでしたか…』
由来や歴史を話したくてうずうずしている人と
聞きたくてうずうずしているわたしの
幸福な出会い!
なんだかこれ、デジャヴですね。
何度か同じことがあったような気がします。
『せっかくこちらに引っ越してきたんで、
このあたりの歴史や伝統に興味があって調べているんです。』
そこからなんと
色々なお話をしてくださって
一時間も立ち話をしてしまいました。
興味深いお話をたくさん聞くことが出来ましたが、
最初にお伺いしたのは
例の『獅子神楽』のことでした。
春のお祭りのときには
ここの神さまは下にある天狗社に一晩お泊まりになり、次の日に帰ってくるのだけど
獅子神楽が随行して、要所要所で邪気払いをするのだそう。
へえ、おもしろそう!
それから
来月『筒粥神事』が執り行われるそうです。
あ、良かったら来てください。
3月4日、もうすぐですね。
なんだか
東円寺の護摩法要のお誘いのときと
展開が似ています。
『歴史がお好きでしたら…
ご存知ですよねえ
むかし昔
このあたりに『うつこ』という湖があったこと。』
(きゃー!
(きゃー!
来タ~~~~(^○^))
どこまでが湖だったんでしょうか?
『そうですねえ
ここ(看板のあるところ)より下は全部湖だったんじゃないでしょうか。
あそこ(この神社の駐車場を指さして)からは弥生式土器とか出て来たんで。』
いつ頃から陸地になったんでしょうか?
この前の道に並行して
鎌倉街道が走っているので
鎌倉時代にはもう陸地だったということですね。
鎌倉街道は
甲州と鎌倉をつなぐ道路で
いわゆる『いざ、鎌倉』ですね。
この街道沿いには頼朝の伝説が方々にあります。
それがわが家のすぐ下を通っていたということです。
そうなんですか。
わたしはあの話を
このおじさん、いや最後に名刺を頂いたのだからもう名前を知っている。
Wさんにしてみたくなりました。
『わたしね
夢をみたんです。
12年前。』
『窓から富士山と湖を見ている夢です。
山中湖によく似ているんです。開けた明るい感じが。でも山中湖じゃないんです。
忍野、と思ったんです。
でね、朝起きて主人に行ったんです。
わたしたち、忍野の湖のそばに住むんだよ。』
その後、実際に彼とふたりでバスで忍野に来て、ずっと歩いて湖らしきものを探して、
でも、そんなものあるわけはない。
あの時歩いた道が、かつては湖だった話を聞いたのは、それから一年あとのことでした。と続くのですが、
その後の話をするまでもなく
Wさんはわたしの話を遮った。
『その場所はありますよ!』
そういってから
『でも、いつもみれるわけでは無いんです。条件が揃ったときだけ、年に数回見れるんです。』
どういうことなのかしら?
富士山と、古代の幻の湖が見れる場所?
年に数回???
続きます。