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Channel: トヨタマヒメ富士日記
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ココロの旅 「愛別離苦」

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四苦八苦(しくはっく)とは、仏教 における苦の分類。 苦とは、「苦しみ」のことではなく「思うようにならない」ことを意味する。

根本的な苦を四苦とし、 根本的な四つの思うがままにならないことに加え、

  • 愛別離苦(あいべつりく) - 愛する者と別離すること
  • 怨憎会苦(おんぞうえく) - 怨み憎んでいる者に会うこと
  • 求不得苦(ぐふとくく) - 求める物が得られないこと
  • 五蘊盛苦 (ごうんじょうく) - 五蘊 (人間の肉体と精神)が思うがままにならないこと

の四つの苦(思うようにならないこと)を合わせて八苦と呼ぶ。





1986年

長く入院をしていた父の二番目の姉が亡くなった。

その白い横顔を見たとき

本当に父にそっくりだと思った。



1987年

こんどは一番上の姉が亡くなった。

わたしは見なかったのだけど、そのとき初めて父が泣くのを見た、と

のちに母が話してくれた。




「みんな土に還ってしまった。」




ぽつりと父が言ったのは今でも覚えている。




それから妙なことを言うようになった。



「あとはあなた方の好きにしてください。」



そうして

父は生きているうちに、新宿の家を

母と姉とわたしの名義にした。




1988年6月1日

父が突然家で倒れて

新宿のK病院に入院した。

見舞いに駆けつけたとき

父はベットに腰をかけていたので、ほっと胸をなでおろした。

しかしそれは肺に水が溜まって横になると苦しいということだったらしい。

足にも水が溜まっているといい、腫れていた。




そこから父はついに自宅に戻ることは無かった。







6月半ばのわたしの誕生日の日に

五年付き合っていたYと別れた。

このときのわたしの精神状態を表現する言葉が思いあたらない。

最愛の父親は入院中だし

Yとは会社でもパートナーでわたしが女房役なので

毎日仕事で顔を合わせなくてはならない。



父はYのことを大変気に入っていて

わたしたちの結婚を望んでいた。

入院中の父に心配をかけてはいけないと思い

そのことは最後まで言えなかった。

父は「わたしの絵や本を全部Yくんに上げて」

と急に言い出して

母とわたしで、

「何言ってんのよ。自分で上げればいいじゃない

早く元気になって、退院してからだっていいよ。」と嗜めた。




Yと別れた初めての金曜日のことをわたしは忘れられない。




金曜日はそのころ「花金(はなきん」といって

みな浮かれて遊びに行く日だ。

金曜日におとなしく自宅にまっすぐ帰る人なんていない。

それに金曜日に残業するひとなんていない。

展示会もおわり、あとは夏まで

アパレルメーカーは比較的暇な時期なのだ。




プレスルームにはわたしを含めて四人の社員がいたが

金曜日は「六時ピン」といって、タイムカードの前に六時を待つ列ができるのだ。

気がつけば、だだっ広い部屋で

わたしだけになっていた。

隣の部屋はYのいる企画室だが、こちらも灯りが消えたのが窓を通して見えた。



いつもなら、Yや仲間たちと食事をしながらお酒を飲んで

青山か西麻布でナイトクラビングを何軒かして

朝帰りするのが正しい金曜日の過ごし方なのに。




家に帰っても母と姉とその一歳になる子だけ

(姉はそのときシングルマザーだった。姉の生き方はわたしには重すぎて

わたしの生き方は姉には軽すぎて、互いに理解しえないでいた。)

父は入院しているし、わたしはその中に入れない。

わたしは好き勝手にやってきてしまったので

たまに帰っても居心地の悪さをその家に感じていた。




「どうしよう・・・」



わたしは「孤独」という言葉を初めて理解した。



しばらくぼうっとしていた。


やがてそろそろ会社を出なくてはならない、と思った。

100人いる会社の最終退館者なんて真っ平ごめんだ。

七時を過ぎていたし、うかうかしていたらそうなってしまう。

机の上を急いで片付けて、バックを持って、ドアを開けようとしたその瞬間

電話がなった。

なにも考えずに反射的に電話に出た。



それがSだった。

運命の一本の電話だ。



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