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みしるし その十四 『灰白の狼』

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次に案内して頂いたのは

大塔宮護良親王が九ヶ月も幽閉されていた、という
土牢の前だった。

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でも、
W氏は

違う、
違う
と、つぶやいている。

ここじゃない、と。

鎌倉宮宮司代理の方に
真摯に話しかけるその姿は
こちらの神職さまたちとの信頼関係のもとに培われたものだ。


W氏の人柄に裏付けられたその発言に
ただただ
肯定も否定も出来ずに
微笑むだけの、代理。

『鎌倉宮の方針では、
そのように説明しなくてはならないんだよ』

暗黙の了解…。

わたしたちも、理解する。





そして

『御構廟』

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竹垣に囲まれたそこは
このように、説明されている。


『渕部義博、御土牢より親王のお首をうばいこの処まで走り下り暁の光に親王のお顔を拝せば無念の形相すざまじく余りの恐ろしさにこの処に御首をお捨て何処ともなく逃れ去った。』


これは、
『太平記』を元にされた
護良親王の物語なのだ。


事実は
史実とは異なるようだ。

もっとも
それを証明することは誰にも出来ない。

わたしは、
すべてのお水を
あの場所、一箇所に注いでしまったこと
後悔はしなかった。

わたしも、ここは
何も感じなかったからだ。

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ただ、ただ、

前世の記憶を持つものが

違う、
違う、
小さくつぶやくに過ぎない。


代理は
明治天皇がここに行幸されたとき
宿泊のために建てられた
現在は宝物殿となっている場所に案内してくださる。

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ここにある

護良親王の肖像画は
明治になってから、想像を元に描かれたものだ。

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全然違う…

W氏はつぶやく。

そして
iPadの
ある方の描いた
宮さまの肖像を見せてくれたのだ。

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左半分は
見せて下さらないのだけどね…


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携帯小説
『キミノ名ヲ』
の主人公
雛鶴姫と呼ばれる『桜井千鶴子』は
大塔宮護良親王のことを
『わたしの灰白の狼』
と呼ぶ。


なぜ
狼なんだ…。

わたしはそれが
不思議だった。


700年前の約束。

また、必ず会おうと約束した男女。


その物語が
何故に
現代に蘇るのか


そして
ごんなにも
人の心を掴むのか


わたしには、さっぱりわからなかったのだ。

ところが
今日という日


1223
天皇誕生日。

門松作り体験イベントに向かうわたしの脳裏に
ある映像が浮かんだ。


灰白の狼!


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(これは、九州のAKOさんが
わたしに送ってくれた画像だ)


わたしも
約束していたことを。


わたしの場合は、
人間ではなく

帝の皇子などではなくて



オオカミ…

何千年も前に
わたしは
“彼”と
約束をかわしていたことを思い出した。


ああ、

それなら、わかる。

その気持ち。


雛鶴姫と
大塔宮の気持ち…。

同じだ…。









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