六月の終わりごろだったと思う。
母が病院に呼ばれた。
わたしの会社に母から電話があり
話したいことがあるので
今日は早く帰ってきて欲しいという。
いやな予感だ。
母が淡々と話すことには
父には「大腸がん」が肝臓に転移していて
もう高齢のために手術が出きないのだという。
「それで
どうしたら治るの?」
そういうわたしに
母は死刑宣告を行なった。
「あともって・・・
一週間くらいだって」
このとたんに世界が停止した。
「ママ、言ったじゃない!
パパが死ぬわけないって!
もう一度言ってよ。
死ぬわけないって!」
この世界の全てがわたしに刃を向けた。
もう、仕事だって恋愛だってお金だって
何にもいらない!
一分一秒だって父に長く生きてほしい。
そのためならなんだってする・・・
その夜
Sに電話をした。
Sは二年前に父親を失っており
そのときの話を盛んにした。
それは4月で
桜吹雪が舞い続けて・・・
そんな話しだったが
わたしはSが無神経に感じて憤った。
少なくとも「大丈夫、奇跡は起きるよ。」
そういって欲しかったのだ。
それで余計に泣いた。
世界には二種類の人間しかいないのだ。
愛する父親が元気でいる人間と
愛する父親が死ぬかもしれない人間と
今のわたしは
後者だ。
しかし何故か
Sの父親が死んだ日の
その桜吹雪が
ずっとビジョンとして見えていた。