この旅は
厳島神社の白蛇伝説
山本 悟
伊東から冷川峠を越え修善寺に向かう道路と、広野一丁目の
交差点で別れ左折すると、間もなく左手の石鳥居をくぐった所に
あるのが、白蛇伝説で知られる厳島神社です。
この神社の西方二町(せいほうにちょう)(約二百メートル余)ばかり
離れた所に見えるのが広野山。
その近くにはしゃくざわと呼ばれる水量豊かな水源地があります。
ところが沢の付近では、突然地の底深く落ち込む地面。
空高く噴き上がる水柱。
そのためにふもとの田畑を埋め尽くす地すべり。
というような異変が続けておこりました。
「また地下水が暴れ出し、大蛇の眠りをさまさせたぞ」
里の人達は被害を大きくならないことを祈りました。
ある年の夏。三日続いたどしゃぶりの雨が止んだので、里の人達は
一斉に田んぼに入りました。
一日中泥田の中をはいずり回り、夕茶(三時)の飯をかきこんだ時
でした。
「雲行きが怪しくなったぞ。また大雨にならんうちに、一番草、
取ってしまわねば」
そんなつぶやきをけちらすように、雨はもう山を駆け下りて来ました。
と同時に雨にかすむ広野山の辺りで、ブオーッという地鳴りが
しました。
地鳴りは立ち木を抱えこんだ巨大な塊を押し出して来ました。
立ち木の間には大蛇らしき物が見え隠れしていました。
里の人達は慌ててその場を去り、少し行った所で振り返ってみると、
田んぼだった辺りは森に変わり、その森に取り囲まれるようにして、
大きな池ができていました。
ほんの一瞬だったとしか思えない間のできごとでした。
それから幾年かが過ぎ、森の木々は茂り、池は青々と水をたたえて
いました。
「見たか、おめえさん。あの池に住んでいる白蛇を!!」
「見たともよ。目は赤く、尾の先には玉をつけてたぞ」
そのころ、里にはこんなふうなうわさが広がってました。
蛇は水神様の使令(つかわしもの)であるということから、里の人
達は池のほとりに祠(ほこら)を建てました。
そして安芸の国(広島)宮島の厳島神社の祭神を、分神として
移してもらいました。
それからというもの広野の厳島神社は、福を授ける神として厚く
信仰されるようになりました。